<一話・天使がコンビニに舞い降りた>


「西野」

中庭を歩いていた西野を誰かが呼び止めた。
その聞き覚えがある声に嫌な予感を感じながらも西野は振り返る。
しかし、そこには誰もいなかった。

「・・・あれ?」

西野が首を傾げると、職員室の窓からクラス担任が顔を出した。

「うわっ!」
「なんやねん、その驚き方は」
「大上先生、そないなとこから顔出されたら誰でも驚きますよ」
「そうか?」
「それより、何ですの?」
「ああ。転校生を教室まで連れていってほしいんや」
「転校生?こんな時期にですか?」
「まぁ、いろいろな」

曖昧な大上の言葉が気になったが、西野は自分には関係のないことだと判断した。

「ええですよ」
「そうか。梶原、コイツはクラスメイトの西野や」
「・・・!?」

「・・・はじめまして」

瞬間・・・。
西野は大上の後ろから顔を出した小柄の少年に目を奪われた。

「お前と同じで一人暮らしやから、いろいろ面倒みたれな」

もはや、大上の言葉など耳には入っていない。

梶原と呼ばれた少年は高校生にしては華奢な身体つきをしていた。
顔は少女かと勘違いしてしまう程に可愛らしく、その小さい身体には大きめの学ランがミスマッチとなっている。

「あ、あの?」
「あ・・・ごめんな」
「西野くん・・・言うたよな?俺、梶原雄太いうねん」
「くん付けはいらん。俺は西野亮廣や」
「西野・・・よろしくな」

「・・・////」

ふわりと笑う梶原に、西野の胸が鳴る。

そんな二人の様子を見ていた大上は、胸ポケットから煙草を取り出した。

「お前ら、見るめ合うなら他でやれや」

「あ、すいません・・・ほな、行こうか」
「うん・・・大上先生、ありがとうございました」
「おう、あとでまたな」

西野と梶原が教室へ向かった後、職員室に一人の男が入ってきた。
その男はだらしなくワイシャツのボタンを開け、眠そうにしながら大上の元へだるそうに歩いてくる。

「遅いで、松口先生」
「しゃあないやろ。株価が上がって徹夜や」
「儲けたん?」
「いや、50万の損や」

悔しそうに舌打ちをする男に大上は煙草を渡す。

「まぁ、落ちつけや」
「・・・授業めんどうやわ」
「あかんって。今日は転校生もおんねんから」
「転校生?ああ、そういや言うてたな」
「俺のクラスやねん」
「ふーん」

松口と呼ばれた男は灰色の煙を吐いた。

「ところで、お前今月のあれ払ったか?」
「・・・いや」
「まぁ、大家が何も言わへんから大丈夫やと思うけどな」
「せやな」



西野と梶原はすぐに仲良くなった。
趣味の共通などのおかげか、西野は梶原のことを「梶」と呼んだ。

「なぁ、梶」
「ん?」
「何で一人暮らししてるん?いや、俺もやけどな」
「・・・西野は?」
「俺は・・・自立したくてな、おかんと喧嘩した末に許してもらったんや」

おかげで仕送りはゼロやけど、と笑う西野に梶原は微笑んだ。

「梶は、何で?」
「・・・・・」
「梶?」

西野の言葉に梶原の顔から笑みを消える。
西野は聞いてはいけないことを聞いたと理解し、すぐに話題を変えた。

「ところで、梶の住んでるとこって何処?」
「・・・近所のコンビニの上やねん」
「近所のコンビニ?俺のアパートもな、コンビニの上やで」
「そうなん?」
「もしかして、同じ所やったりしてな」
「それはないんやない?」

そして、放課後・・・。
西野は梶原と一緒に帰ることになった。

「実はな、まだ大家さんに会ってないねん」
「なんで?」
「電話したら、即オーケーもらったんや」
「いい加減な大家やな。まるでうちの大家みたいや」
「西野のとこの大家さん?」
「俺がバイトしてるコンビニのオーナーでもあるんやけど。悪い人ではないで?仕事せぇへんけど」
「なんや、それ。あ、ここが俺の住むアパートやで」
「・・・え?」

梶原が指さしたアパート・・・。
その一階には「コンビニエンスストア・WEST SIDE」の文字が。

「ま、マジで?」
「西野?」

まさに開いた口がふさがらない状態である。

「梶、その大家の名前・・・」
「中川さん、言うてた」
「・・・やっぱりな・・・」

西野はがっくりと肩を落とした。



「えー!?西野の家もここなん?」
「せやで」
「すごい偶然やな」
「ちなみに言うとな、大上先生の家でもあるから」
「えぇ!?」
「あと、もう一人うちの学校の教師が住んでるけどな」
「・・・なんや、すごいなぁ」
「俺もびっくりやわ」

お互いに顔を見合わせ、クスクスと笑う。
すると、そこへ店の中から出てきた中川がやって来た。

「西野、何してんねん」
「中川さん。またパチンコですか?」
「どうせ暇なんやし、ええやろが」
「高井さんに怒られても知らないですよ」
「そう言うなって。・・・ん?それ誰やねん」

中川は西野の後ろに隠れるようにしている梶原を指さした。

「それ言うのやめてください。梶、この人が大家の中川さんやで」
「あ・・・梶原です。この間、電話した・・・」
「梶原ぁ?・・・・ああ!!待ってたで!」
「お世話になります」
「荷物はもう届いてるみたいやから」
「ありがとうございます」
「しかし・・・なぁ・・・」
「?」

中川は梶原の顔をジーッと見つめた。
そして、いきなりニコニコと笑い出す。

「梶原くん、可愛いなぁvvおっちゃん好みやわー」
「へ?」
「中川さん!!」
「なんやねんな、西野」
「中川さんには飲み屋のお姉さんがいてるでしょう!」
「あんなん本命ちゃうしな。梶原くんやったら本命にできるわvv」

おっさんモード全開であった。
中川のおっさんぶりに梶原は曖昧な笑みを浮かべ、西野は何とか中川を梶原から離そうとする。
その時であった。

「中川!!仕事せんで何処行く気やねん!!!」

店長である高井の声が響く。

「トシ!調度ええわ!」
「何が調度ええやねん!どうせパチンコに行く気やったんやろ!」
「まぁまぁ」
「まぁまぁやないわ!」
「トシ、新しいバイトくんやで」
「バイトー?」
「梶原くんや!」

「えぇぇ!?」
「中川さん・・・?」

梶原よりも西野が大声を出して驚いていた。

「梶原くん、一人暮らしで収入あまりないんやろ?」
「はい、まぁ」
「せやったら、うちで働けばええやんか」
「・・・ええんですか?」
「中川!うちの経営状況を考えてからモノ言えや!」
「なんやねん。今さら一人増えた所でどうもせんって」
「せやけど・・・」
「まぁまぁ。梶原くん、コイツは店長の高井や」
「よ、よろしくお願いします」

その時、高井が初めて梶原の方を見た。

「・・・お、おお////」

すると、瞬時に高井の勢いが少し弱まる。
どうやら、梶原の可愛らしさに怒る気も失せてしまったようだ。

「あの、高井さん」
「な、なんや」
「俺、一生懸命頑張りますから・・・働かせてください!」
「・・・まぁ、決めるのはオーナーやしな・・・」
「高井さん。さっきと言うてることがちゃいます」
「西野、お前なにぼさっとしてんねん!早く品出しして来いや!!」
「図星だからって当たらないでくださいよぉ!」

そんな西野と高井の会話に梶原が笑い出す。

「あははははっ!」

その笑顔に釘付けとなる三人。

「梶原くん、今日から働いてくれるか?」
「はい!俺なんかでよければ働かせてください!」
「よろしくなぁ」
「あの・・・」
「ん?」
「俺のこと、梶原くんじゃなくてええですよ」
「じゃ、梶でええ?」
「はいっ!」

この時、西野は少しガッカリしたとか・・・。
微妙な男心に気付かない罪作りな天使こと小猿。

そんなこんなで・・・。

コンビニエンスストアWEST SIDEに天使が舞い降りた。


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・おまけ・

「高井さーん」

店の中から菅と宇治原が出てきた。
店を空にして大丈夫なのだろうか?

「あ、仕事中やったわ」
「調度ええやん。菅、宇治原、新しいバイトくんや」
「バイト?何で今更?」
「まぁ、少し華を入れた方が客が増えるかもしれへんしな」
「華?女性ですか?」

そう言って、宇治原は周りに目を向け・・・固まった。

「宇治?どないしたん?」

菅もつられるかのようにして宇治原と同じ方に目をやり、固まる。

「あの・・・よろしくお願いします」

微妙な笑みを浮かべる梶原であったが、それでも可愛さがかすれることはない。
すぐさま笑みを取り戻し、菅が梶原に抱きつく。

「!?」
「あーーー!菅さん、何してるんですか!!」

西野が大声で叫ぶが菅は素知らぬ顔。

「俺、菅いうねん。よろしくな!」
「は、はい・・・」
「ずるいで、菅!俺は宇治原や」
「よろしくお願いします」

菅と宇治原が顔を見合わせてニヤリと笑った。
その笑みに梶原の身の危険を感じる西野と高井。
中川は相変わらずな笑みを浮かべていた。




コメント
ロザンが出てこない。
はははは。このパロだと高井さんが別人。
梶くんも別人。
・・・微妙。