<二話・コンビニ戦争勃発>
「松口先生」
「あ?」
名前を呼ばれ、振り返った。
そこには見知らぬ顔の少年が立っている。
「・・・お前、誰や」
吸っていた煙草を落としそうになるくらい、動揺していた。
この不良教師にしては珍しいことこのうえない事態。
「転校生の梶原雄太です」
ニッコリ微笑んでそう言う小柄な少年に、不覚にも胸が鳴る。
挨拶だけしてその場を去る少年の後ろ姿をボーッと見つめながら、松口は口元を上げた。
・
「・・・高井さぁーん」
「ん?どうした?梶」
「レジが動かないみたいです・・・」
今にも泣きそうな顔をしながら梶原が高井に泣きついた。
高井は頬をゆるませながら頭を優しく撫で、これまた他の店員には見せたことのないような優しい笑みを浮かべ、梶原に優しくレジの操作を教える。
そんな高井を見ながら、鳥肌たたせずにはいられなにのがオーナー以外の店員。
「こわっ!」
「気持ち悪いわー」
「顔でかいわー」
「それは関係ないやろ、菅」
「高井さん、梶にだけ優しいですね」
「下心見えてるやん」
「男きどっとるくせに、結局はオトコやねんな」
好き勝手言われているようだが、高井もその程度で怒りはしない。
梶原の前、というのもあるが。
「あ、そうか!ありがとうございました、高井さん!」
「わからないことあったら遠慮なく聞くんやで」
「はいっ・・・ひゃぁっ!」
突然、梶原から艶かしい声が発せられた。
「梶ー、今日も可愛いなぁvv」
オーナー、中川が梶原のお尻を触ったのだ。
「中川さん!やめてくださいっ!」
「ええやんかーvv減るもんでもないし」
おっさんパワー全開である。
が、ここで黙ってないのが他の店員・・・というか高井。
「中川・・・?」
ごごごごごごごごっ・・・という地響きがどこからともなく聞こえてきそうな気迫である。
「と、トシ?」
中川がゆーっくりと振り返ると、そこには鬼の形相の高井が立っていた。
そして、数秒後・・・。
中川の叫び声が店内に木霊した。
「あーあ・・・」
「南無南無・・・成仏してください」
「菅さん、縁起でもない」
まるで他人事のように(他人事だが)そんなことを言う三人。
一方、梶原は本気で中川の安否を心配していた。
「中川さん、大丈夫なん?西野っ」
「大丈夫やって。梶が心配することちゃうで」
「そうやそうや」
「ところで、そろそろ品出ししとかな」
「あ、発注してへんわ」
それぞれが自分の仕事を始める為に動き出す。
と、その時。
本日、初めての客が店にやって来た。
「いらっしゃいませー」
「おはようさーん!」
明るい声と共に店内に入ってきたのは小柄な少年だった。
おそらく、菅よりも小さい。
その外見は、中学生ではないかと思われるほどだ。
「あ、須知さんや」
「おー、おはよう」
「新しい飴あるで」
馴染みの客なのか、親しそうに挨拶する三人。
須知と呼ばれた少年?はその三人に挨拶をすませ、菓子のコーナーへと向かう。
すると、そこには菓子の品出しをする梶原の姿が・・・。
「あれ?」
「え?」
「君、誰なん?」
「あ・・・新しく入った梶原ですっ」
「ふーん」
下から上までジロジロと見られ、梶原の笑顔がひきつる。
「年いくつ?」
「じゅ・・・十六です」
「俺より下かぁ」
「え!?」
「・・・何?その驚き方」
「あ、いえ・・・」
「俺、これでも菅と同じ年やで」
「そ、そうなんですか」
「まぁ、そう思われてもしゃあないけど」
「すいません・・・」
「あー、ええって!気にせんとき!」
「でも・・・」
申し訳なさそうに下を向いてしまう梶原に焦る須知。
「あー・・・じゃあ、これやるわ!」
そう言って、ポケットから取り出したのは一個の飴。
「・・・飴?」
「イチゴ味やvvうまいで」
「あ、ありがとうございます」
「俺な、須知いうねん!よろしくな!」
「よろしくお願いしますっ」
餌をもらって懐いてしまったのか、極上の笑顔を向ける梶原。
そんな梶原の笑顔に須知の目が光る。
「・・・宇治」
「ん?」
「やばいで」
「何がや」
「すっちゃん、梶に目つけたかもしれへん」
「・・・そらやばいな」
「え?須知さんがですか?」
須知と梶原の様子を見ていた菅が宇治原にそう言うと、西野が頭上に?を浮かべた。
「須知さんは大丈夫やと思いますけど?」
「いやいやいや」
「すっちゃんを甘く見たらあかんで。高校の時すごかったしな」
「せやな」
「あの須知さんがですか?」
そんな話をしている三人の元に、飴の袋を持った須知が笑顔でやって来る。
「会計たのむわ」
「・・・すっちゃん、まさかとは思うねんけど」
「んー?」
「梶はあかんで」
「何でや。もう手出したんかいな」
「いや、まだやけど」
「じゃ、ええやんvv」
宇治原の言葉など聞く耳もたずとでも言うかのように、ニッコリと笑う須知。
そのどことなく黒い笑顔に西野がひきつる。
「・・・須知さん、黒いわ」
「な?」
「・・・アンタも黒いけどな」
「何か言うたか?」
「いえ、別に」
梶原争奪戦は始まったばかりであった。
「じゃー、またなー!」
「あ、すっちゃん!」
「ん?」
「木部は?最近あまり見てへんのやけど」
「あー・・・木部ちゃんは引きこもりになってるで」
「またか・・・」
「授業で先生に順番飛ばされて落ち込んだみたいやで」
「確かに、木部ちゃん指されへんしなぁ」
「存在感ないのも考えものやで」
「そうは言うても、木部ちゃん特徴とかないやん」
「・・・せやなぁ」
・
須知が帰って一時間後・・・。
店内はまたもや暇であった。
しかも、今日は日曜日な為に平日以上に暇なのだ。
「・・・することないわ」
「掃除も終わったしなぁ」
「高井さーん、帰ってもええ?」
「あかん」
「することないですやん」
「高井さんは経理あるから暇やないかもしれへんけど」
「ほんまやったらな、これはオーナーの仕事なんやけどな」
「そういえば、中川さんは?」
「は?」
西野の言葉に高井が店内を見回す。
そこに中川の姿はなかった。
「事務所にもいてへん」
「あ、中川さんならパチンコ行きました」
「なにぃぃぃぃ!?」
「え・・・止めた方がよかったですか?」
高井の大声に怯えた梶原が上目使いで申し訳なさそうにする。
その様は怯えた小動物!!
当然、そんな顔されて顔を赤くしない男などいない。
いや、コンビニの上に幼なじみと住んでいる変態とアーティストを目指している鳥顔は別かもしれないが・・・。
『・・・っつ////』
「梶は何も悪くないでー?」
「そうそう!中川さん帰ってきたら高井さんがシバくしな」
落ち込む梶原を慰める宇治原と菅。
(ちなみに、軽いセクハラあり)
「じゃあ、俺は事務所いるからな」
「はーい」
「何かあったら呼べや」
高井が経理整理の為に事務所の中に入っていく。
その直後に店の自動ドアが開き、男が入ってきた。
「いらっしゃいま・・・・」
その男の姿に西野が固まる。
「あ、煙草吸ったまま店内に入るのやめてくださいよ」
西野に代わり、その客に注意する菅。
その菅の言葉に舌打ちし、その客は携帯灰皿に煙草を入れた。
「あれ?松口先生!」
「おう、梶原」
客は体育不良教師の松口であった。
休みであるにも関わらず、その服装はロックで決められている。
ちなみに、この男は学校でもそんな感じだ。
ジャージなどというダサい服(本人曰く)は着たくないらしい。
「そういえば、西野と梶原は松口さんの教え子やったな」
実はいうと、松口は宇治原や菅の大学の先輩でもあった。
大上もだったりするのだが。
「珍しいですね、松口さんがコンビニに来るなんて」
「ケチなのに」
「投資信託はやめたんですか?」
「阿呆か、まだ続けてるわ!それに、別に買いものに来たわけやないしな」
「じゃあ、何ですか?」
「梶原に用があんねん」
「え?俺ですか?」
驚く梶原にニヤリと笑みを浮かべる松口。
その怪しげな様子に即座に反応する菅と宇治原。
ちなみに西野は今だ動けずにいた。
「あかん!!」
「何があかんねん、菅」
「松口さん、目がエロいですやん!」
「梶に何する気ですか?」
「別に?ただ、体育の個人授業の予定表を渡しに来ただけや」
「個人授業・・・?」
「何でそんなんするんです?」
「コイツのスポーツテストや」
「別にそんなん個人授業やなくてもええやんか!」
「あんな、コイツ一人の為に他の生徒の授業を遅らせるわけにはいかんやろ」
とりあえずは正当な理由であった。
「松口さんが他の生徒のこと考えるはずないやん!」
「協調性の欠片もないしな」
「好き勝手言うな!シバくぞ!」
睨み合う三人。
すると、今まで黙っていた梶原が口を開いた。
「あ、あの・・・個人授業してください!」
「おお、やったるわっ」
『あかんって!!!』
「でも、俺のせいで他の人の授業を遅らせるわけには・・・」
「あかん!梶、このエロ教師と二人きりでおったら貞操奪われんで!!」
「この不良が生徒のこと第一に考えるわけないんや!」
「おい、先輩に向かって随分な言い方やんけ」
「西野も何か言えや!いつまで固まっとんねん!!」
菅の声に我に返る西野。
「あ?なんや、西野もおったんか」
「い、いましたよ!松口先生、梶の個人授業でしたら俺も付き添います!」
「はぁ?」
「あ、それええやん!それなら俺らも付き添うしなっ」
「せやな!その方が梶も安心やろ?」
「お前らは保護者か!」
いえ、彼氏立候補です。
「でも、店は?」
「そうや!お前らはバイトがあるやろが!」
「そんなん後藤でも立たせとったらええねん!」
「どうせアイツは暇やしな」
「ついでに徳井もつけとこうや」
「客引きにはええかもしれんな」
「中身は変態でも顔だけはええからな」
何やら梶原の意見などそっちのけで盛り上がる菅と宇治原。
そんな二人を心配そうに見ている梶原を西野が抱き寄せる。
「心配せんでもええって、梶」
「でも・・・俺のために・・・」
「梶が気にすることやないから」
「・・・」
「俺らが勝手にすることやから、安心し?」
「・・・うん、ありがとう」
何をやっているのか、西野さん。
もはや二人きりの世界・・・かと思われた。
「あー!西野、何してんねん!!」
「シバく!」
「点数下げられたいんか?」
「松口先生!それは関係ないですやん!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎまくる(梶原除く)店員+α。
と、そこへ・・・。
「弁当もらいに来たでー」
鳥顔のフリーターがやって来た。
「あ、いらっしゃいませー」
「なんや?この騒ぎは」
「後藤さん、これ今日のお弁当です」
「ああ、悪いな梶原・・・って、松口さんやんか」
「あれ?・・・今日、岩尾さんは?」
「アイツは講習会やねん」
「あーーー!鳥顔、お前なんで梶に近づいてんねん!!」
「えぇ!?」
「離れろや!」
「いったぁっ!何すんねん、こらぁ!!」
何故か闘争に加わる後藤。
事態は大惨事へと変わる。
その大惨事をどうすることもできず、梶原はおろおろするばかりであった。
しかし・・・。
この大惨事が高井の怒鳴り声によりおさまるまで、あと数十秒。
梶原以外の全員(何故か後藤も)が正座させられ、高井に説教される羽目となるのであった。
「うわー、見てみ?福」
「んー?・・・何があったんやろな」
そして・・・。
大人が正座させられたまま説教される場面を目撃することになった福田と徳井の姿がそこにあった。
一方、パチンコにいった中川は大儲けだったそうな。
end
コメント
長い・・・かも。
というか、須梶とか松梶とか有り得ないですよね。
あと、この後藤さんは岩尾さん一筋です!!
最後に徳福出てきたしなぁ。
ああ、終わるのか?この話。
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