<夏の終わり>


シンクロ講演後。
32人の男子と栞たちは打ち上げで騒ぎまくっていた。
場所は屋上。
なかには酒を持ち出してきた奴もおり、佐野などは完全に酔っぱらいと化していた。

「みんなー、あんまりはしゃぎすぎないでねー!」
「先生!佐野が酔ってまーす!」
「水ぶっかけろー!いぇー!」

注意・酔っぱらいに水をかけるのは危険です。

そんななか、洋介は泳吉がいないことに気が付いた。

「あれ?泳吉くん・・・?」

リーダーである彼がこの場にいないのはおかしい。
洋介は泳吉を探す為に一人屋上から降りていった。

「どこ行ったんだろー」

ドボンッ・・・

「・・・プール?」

洋介の耳に聞こえてきた何かがプールに飛び込む音。

そして、洋介の目に飛び込んできたのは・・・。

「・・・泳、吉・・くん?」

プールでひたすらシンクロの演技をする泳吉の姿。
月明かりに照らされた泳吉の姿が、洋介の目に鮮明に焼き付く。
それは、今まで洋介が見たこともないくらい神聖な光景に思われた。

「・・・泳吉くんっ!」
「・・・洋介?」
「な、なにしてんの?」
「・・・記念」
「なんの?」
「俺、もうすぐいなくなるから」
「あ・・・そっか」

しばしの沈黙。
すると、ふいに泳吉がプールからあがり、洋介の目の前に立った。

「泳吉くん?」

「俺、お前がいてくれてよかったと思う」

「え?」
「お前がいてくれなかったら、シンクロのリーダーできなかった」
「そ、そんなこと・・・」
「ありがとな、洋介」
「そんな!お礼を言うのは僕の方だよ!だって・・・」
「だって?」
「泳吉くんは僕の救世主なんだから!!」
「・・・洋介」
「泳吉くん、僕ね・・・」
「・・・」
「泳吉くんがいなくなるの悲しいよ」
「・・・うん」
「僕たちのこと忘れないでねっ」
「忘れるわけないよ」
「僕のこと・・・」
「忘れないから」
「・・・」

洋介は泣きそうになるのを必死にこらえた。
今までの自分を変えてくれた泳吉にそんな恰好悪い姿は見せたくなかったからだ。

「・・・泳吉くん」
「・・・うん」
「僕、泳吉くんのこと大好きだよ」
「俺も・・・」
「絶対に忘れないから」
「俺も絶対に忘れない」

洋介は泳吉に抱きついた。
みっともない顔を見られまいと、泳吉の肩に顔を埋める。

「泳吉くん・・・」

「うん」

「僕、泳吉くんに負けないくらいカッコよくなるからね」
「・・・?」
「絶対に、男らしくなってみせるからっ」
「どういう・・・」
「いいよ、今はわからなくて」
「?」

僕がもっと男らしくなって。

いつか、君が帰ってきてくれた時に。

「泳吉くん」
「なに?」
「最高に楽しい夏だったね!」
「そうだな」
「必ず、帰ってきてね」
「必ず、帰ってくるよ」

また、暑い夏の日まで。

それまで、この言葉は言わないよ。


end

コメント
洋泳のつもり。
私のなかで洋介くんは腹黒いと思う。
でもこの洋介くんは女々しいなぁ。
あー、むずかしい。