<二話・商店街の人々>
兄弟そろって朝食をとるのが中川家の決まりだ。
朝食を食べ終えた後は俊彦が後片付けをする。
広文、史規、亮廣の三人は大学へ行く準備をし、雄太は高校へと行く。
ちなみに、兄弟全員で雄太を見送るのもこの家の決まりである。
「雄太、気をつけてな」
「遅くなるようなら電話するんやで」
「わかってるって。じゃあ、いってきます!」
元気に手を振って玄関を出て行く雄太。
そんな雄太を見送る兄五人。
この光景は近所では少し有名である。
その時、雄太とすれ違う形で中川家にやって来た男が二人。
「もう、徳井くん!いい加減にしてよ!!」
「何でやねん」
「僕はこれからバイトなんやってば!」
「せやかて、福と一緒にいたいし」
「仕事の邪魔!」
「なら俺もバイトする!」
「無理言うな!!」
ぎゃーぎゃー言い合いながらやって来たのは近所のアパートに住む福田と徳井であった。
「福田さん、徳井さんおはようございます!」
「あ、雄太くん。おはよう、これから学校?」
「はい」
「頑張ってな」
「・・・大変そうですね?」
「せやねん・・・あ、今日もお菓子用意しとるからね」
「はいっ!楽しみにしてます!」
中川家の長男である貴志は喫茶店を経営している。
亡くなった両親が残してくれた店でもあり、一度は閉店したのだが数年前に貴志が復活させたのだ。
今は俊彦と二人で経営しているのだが、福田はその喫茶店のバイトをしている。
パティシエを目指している福田にとっては腕をみがく為にもいいとのことで、格安のバイト代で雇っているのだ。
ちなみに、福田も雄太を弟のように可愛がっており、毎日のようにお菓子を作ってあげているらしい。
恋愛感情はないのでお間違いなく。
「福ちゃん、おはよう」
「おはようございますっ」
「今日も余計なんついて来てるやん」
俊彦がうんざりするように溜息をついた。
余計な、というのは徳井のこと。
福田の幼なじみにして、自称恋人の徳井は毎日のように福田にくっついて来るのだ。
「よっきゅん、仕事せぇへんの?」
「俺はパソコンで儲けてるから大丈夫や」
「あ、そ」
「さぁて、俺らも大学行くかー」
一方、その頃・・・。
近所の商店街も開店準備を始めていた。
「大上ー、今日は何か入ってるかー?」
「おう、入ってんでー!ブリのいいのが!」
「じゃあ、それ・・・」
「買うか?」
「くれ」
「・・・お前、自分の店はどないした」
「あ?」
「さぼってないで準備せぇよ」
「阿呆か!目の前に生臭い店があったら客なんてよりつかへんわ!」
「生臭いって俺の店のことか?」
「他に生臭い店なんてないやろ」
八百屋の若旦那である松口は、魚屋の若旦那である大上とは高校時代の友人だ。
ゆえに、店を放っては大上の店に入り浸っている。
どれくらい入り浸っているかというと・・・。
野菜を買いたければ魚屋に行けという暗黙ルールができるほどだ。
勝手に商品を物色しだす松口に大上が溜息をつく。
その時、隣の店から一人の男が出てきた。
「松口さん、いますか?」
「お、川谷電気店やん」
「松口さん、前に言うてた液晶テレビ入りましたけど?」
「おう」
「お前、液晶テレビ買うつもりなん?」
「うちのが壊れてな。テレビないと浜崎あゆみが見れへんねん」
「かなり値切られましたけどね」
「ええやんか。高校ん時の先輩後輩の仲なんやから」
「お前の場合は脅してるだけやろ」
「まぁまぁ。そうや!お礼に大根やるわ」
「え、ほんまですか!?」
「そろそろ賞味機嫌切れそうやねん」
「・・・ええです」
「松口、お前・・・最悪やわ」
「冗談やろが!」
松口が面白くなさそうに煙草を捨て、足でもみ消す。
「おい!俺の店に煙草を捨てるな!」
「そういえば、大根で思い出したんやけど」
「聞いてんのか!」
「川島漬け物店の親父が嘆いてたな」
「何でですか?」
「なんや、一人息子が店継ぐ気ないとか言うたらしいで」
「ああ、あの声の低い息子」
「漬け物屋やなくて豆腐屋になりたいとか」
「・・・あまり変わらない気しますよ」
「でも、あの店にはもう一人いるやん」
「あれは息子やなくて預かってるだけや」
「あ、そうやったん?」
「お前はほんまに情報遅すぎや」
松口が呆れるように溜息をついた。
その時、とてつもなく元気な声が大上魚屋に響きわたる。
「おはようさーん!!」
「お、須知やん」
「何してんですか?」
「漬け物屋の話や」
「ふーん。あ、飴ちゃん食べます?」
「お前、これ店のやろ?」
「ちょっとパクったくらいじゃ潰れませんって」
「えらい自信やんけ」
「下校時間の小学生のおかげですわ」
また、別の店では・・・。
「今日も頑張って服売るでー」
ブディック白川の跡取り息子である白川が張り切って品出しをしていた。
すると、そこへ酒屋の息子である浜本が・・・。
「しらー」
「なんや、浜・・・また来たん?」
「面白い服入ってへん?」
「・・・お前、カーディガンの着方間違ってんで」
「どこがやねん」
「羽織って袖で結ぶのは変や」
「かっこええやろ」
「・・・・」
またまた別の店・・・小堀楽器店の前では。
何故か店長である小堀がギターを弾きながら歌っていた。
「イナゴとイナゴがごっちんこー」
そこへ、謎の人である陣内が通りかかる。
「小堀さん、新曲ですかー?」
「せやでー」
「頑張りますねー」
「お前は何処行くねん」
「喫茶店ですわ」
「仕事せぇへんのかー?」
「してますよ?」
「・・・せやったか?」
今日も今日とて、商店街は平和である。
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コメント
こんな商店街あったら行きますよね。
松口さんが八百屋・・・。
いえ、ロックな八百屋がいてもいいかなと。
川谷さんは電気屋ですよ?
あー、もう知らない!!