<三話・旅行に行きたい!>
夏休み・・・。
気怠い暑さと五月蝿いセミの鳴き声。
風鈴など、風がなければ役には立たず。
というか、風鈴がなったところで暑さはなくならない。
暑いのは中川家の同じこと。
窓を全開にし、リビングのソファに寝転がる広文の姿がそこにあった。
「・・・暑い」
これで何回目になるだろうか、近くに座っていた文規は団扇を扇ぎながらとりあえず返事を返す。
「せやなぁ・・・」
「今日、何度や」
「40度」
「・・・何でこないな時にクーラーが壊れんねん」
「文句なら亮廣に言えや。クーラー壊した張本人やねんから」
「わかってるわ!せやけど、アイツいないやんけ!!」
「サークルの集まりとか言うて出かけたけど・・・逃げたな」
「帰ってきたらシバく!!」
あきらかにイライラしているのがわかる。
おそらく、キレるまで数分もないだろう。
史規は双子の兄である広文を宥めるのも面倒だと溜息をついた。
その時、広文が何か思いついたかのように体を起こす。
「そうや!」
「どうした?」
「避暑に行けばええねん!」
「・・・は?」
「せやから、避暑や避暑!」
「無理やろ。店あんねんから」
「数日くらい休んでも大丈夫やって」
「・・・俊兄が何て言うかやけどな」
「・・・あ、そうや!」
また何か思いついたのか、広文は急いで二階へと駆け上がっていった。
向かう先は、愛しの弟である雄太の部屋。
「雄太ー!」
勢いよくドアを開けると(ノックしろよ)そこにはやはり暑さでダウンしている雄太の姿が。
心なしか、かいている汗と蒸気したピンクの頬が色っぽい。
「あ・・・・なぁに?広兄」
「雄太、かわええvv」
「う・・・広兄、暑い・・・」
ギューッと強く抱きしめられ、雄太が苦しそうな声をあげる。
流石にこの暑さでは嫌がるのは当然。
しかし、広文は全く気にしていない。ビバ、プラス思考。
「あんな、家族で旅行行きたい思ってんねんけど」
「旅行!?vv」
広文の言葉に雄太の目が輝いた。
「行きたいか?避暑やで」
「行きたい!・・・でも」
「ん?」
「店、あるやん」
「大丈夫やって!雄太さえ行きたいと言えばな」
「・・・」
「家族で旅行なんて滅多に行けへんやん?」
「・・・でも」
「いい思い出作りにもなんで?」
「うん・・・」
「よっしゃvv決まりな」
半ば強引ではあるが、見事なまでに雄太を味方につけてしまった。
そして、その夜。
広文は家族全員(亮廣除く)をリビングに集めた。
「広、話って何やねん」
「俊兄、家族で旅行に行きたいんやけど」
「そんなん無理に決まってるやろ」
「せやけど、雄太も行きたい言うてるし・・・な?」
「う、うん」
「雄太も?」
「俊、雄太が行きたい言うてるんやから、ええんちゃうか?」
「ほんま!?」
「たぁ兄は甘い!店を休むわけにはいかへん!!」
真面目な俊彦を折れさせるのは至難の技だ。
広文は内心で舌打ちをし、史規は溜息をついた。
しかし、広文には秘策がある。
「雄太、ちょっと・・・」
「なに?」
「耳貸しや」
雄太を手招きし、何かを耳元で囁く広文。
「え・・・ほんまに?」
「せやないと旅行に行かれへんで?」
「・・・うん。わかった」
広文から離れ、雄太は俊彦の側に歩み寄った。
「あ、あの・・・俊兄」
「ん?」
「俺、俊兄と旅行に行きたいねん・・・だめ?」
「!!!/////」
まさに秘策中の秘策。
可愛い弟に上目使い(心なしか目を潤ませて)でお願いされてはNOと言うわけにもいかず。
「・・・し・・・しゃあないな////」
とうとう折れた俊彦であった。
というか、兄馬鹿も程々にしとけよ・・・と言いたい。
「やったーーー!!」
「じゃあ、店に張り紙しとかなあかんな」
「たぁ兄、福ちゃんにも連絡せなあかんやろ」
「せやな」
旅行の予定をたて始める貴志と広文。
そんな二人に、雄太が遠慮がちに声をかける。
「あ・・・あのさ」
「ん?どないしたん?雄太」
「福田さんも、連れてったらあかんかな」
「うーん・・・別にええけど」
「え?」
「絶対に余計なんがついて来る気がすんねん」
「いや、確実について来るやろ」
「・・・うざっ」
当然、それは徳井氏のことだ。
だが、雄太の要望はなるべく叶えてやりたい兄馬鹿たち。
仕方なく、福田の携帯に電話をかけると・・・。
「福ちゃん、来れるみたいやで」
「ほんま!?福田さん来れるん?」
「せやけど、余計なんも来るみたいやで」
「・・・やっぱり」
雄太以外がうんざりするような溜息をついた。
と、その時。
「ただいまー」
「あ、亮兄や!」
亮廣が帰ってきたらしい。
嬉しそうに玄関へと駆けていく雄太。
「あれ?そういえば、アイツおらへんかったん?」
「気づかへんかった」
哀れ、存在さえ気づいてもらえていなかったらしい。
亮廣の位が兄弟の中で一番低いからなのか。
「亮兄、みんなで旅行に行くんやで?」
「え?」
「楽しみやね!!」
「えぇ?」
何が何だかわかっていない亮廣であった。
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続きます。
さぁ、どうなる?
次は旅行準備編です。