<最後に見たもの>
最後に見たのは、徳井くんの笑顔でした。
徳井くんは子供みたいなことをたまに言う。
「福、出かけへん?」
「何処に?」
「お空」
「飛行機にでも乗る気なん?」
「ちゃうで」
「じゃあ・・・」
「お空なんて簡単に行けるもんやで」
彼が何を言いたいのか全く理解できなかった。
でも、僕は彼に付き合う。
なんだかんだ言って、僕は徳井くんにだけは甘い。
「でもお空は無理やろ。すぎには行けへんよ」
「・・・じゃあ近道すればええやん」
「近道?」
「海、行こうや」
「何で海なんよ・・・」
「ええからええから」
結局、言われるがままに徳井くんと一緒に海へ行く。
俺が運転する、という徳井くんに何でか聞いたら・・・。
「俺は福の彼氏やからvv」
という答えが返ってきた。
運転席で嬉しそうにハンドルを握る徳井くんの横顔を見て、僕は笑う。
「福、お空言ったら何しよ?」
「せやなぁ・・・鳥でも捕まえる?」
「無理やって。お空にいるんは鳥やないし」
「じゃあ何よ」
「天使」
「・・・じゃあ、天使をナンパするわ」
「・・・浮気は許さへんで」
「冗談やって」
ほんま、徳井くんの戯れ言に付き合うのは並大抵の気力ではもたない。
きっと僕だからできること。
他の人だったら徳井くんのこと変人扱いして終わりやけど、僕だけは違うんよ。
君とは幼稚園からの付き合いやし。
「福、海ってどっちや」
「わかってへんのかい・・・」
「ま、走ってれば着くやろ」
「ボジティブすぎ」
「まぁまぁ」
ニコニコしながら車を走らせる徳井くん。
そんな彼と共にこうしているのも悪くはない。
だけど、僕は何かを忘れている気がする。
何を?すごく大事なこと?
何だったっけ?
「・・・海、着かへんな」
「せやな」
「・・・お空行けへん・・・早く行きたいのに」
「・・・海じゃなきゃ、あかんの?」
僕の言葉に、徳井くんが目を見開いた。
そして、とびっきりの笑顔を張り付かせたまま・・・。
「福・・・海行かんでもお空行く方法あるで」
「え?」
気がつけば浮遊感に襲われていた。
そして、思い出す。
「・・・ああ、そうやった」
徳井くんは、病んでるんやったね。
地面に車がぶつかる瞬間、徳井くんが僕の手を強く握る。
最後に見たのは徳井くんの笑顔でした。
赤い血に染まっていくのを感じながら、僕は徳井くんの手を強く握り返した。
end
コメント
・・・え?
なに、これ。
心中?徳井さんは病んでる?
いえいえ、病んでいるのは管理人でございます(死
さて、これより私めは長い旅に出ます。