<幻覚の彼方の君>



誰もが彼を憐れみの目で見た。

誰もが彼に同情の言葉をかけた。

誰もが彼の心を癒そうとした。


彼は誰の声を聞こうとはしなかった。



「梶、お前何やってんねん」

「せやかて、出来ないもんは出来へんねん・・・」

「しゃあないなぁ・・・貸して?やったるから」

「ええの!自分でやる!」

「梶は不器用やから無理!俺がやったるって」

「ええのー!自分でやるのー!!」

「ほんま、梶は阿呆やなぁvv」


幸せそうに笑う彼に、誰が真実を伝えることができようか。

それでも、彼は真実を見据えなくてはいけない。

それは誰もがわかりきっていた。

しかし、彼は他人の言葉に耳を貸さない。


「西野」

「あ、福田さん。聞いてくださいよ!梶がね・・・」

「西野・・・もう、いい加減に」

「ほんま阿呆なんですよ、こいつ」

「・・・西野」

幸せそうに話す西野を見て、福田は目から涙をこぼした。

そんな福田の姿が見ていられなくなったのか、徳井が西野の肩を掴む。

「西野、いい加減にせぇよ」

「何がですか?」

「ほんまはわかってるんやろ?」

「は?徳井さん、とうとうおかしくなりました?」

「おかしいんはお前や」

「どこもおかしくないよな?梶?」

「・・・何処におんねん」

「え?」

「梶・・・何処におんねん」

「何言うてるんですか?俺の隣にいてるじゃないですか」

「・・・誰もいてへん」

「いますよ」

「いてへん」

「いますって」

「いてへんねん!梶は、何処にもいてへん!!」

「・・・えー?」


西野は先輩である徳井が何を言っているのか理解できていない様子だった。

そんな西野を見て、福田はとうとう泣き崩れる。

「福・・・」

「とく・・・い・・く・・・っつ・・・くっ・・」

徳井は自分に抱きつきながら泣き続ける福田を抱きしめた。

「徳井さん、イチャつくんやったら他に行ってもらえます?」

「西野・・・」

「梶が恥ずかしがってるんで」

「・・・お前」

「はい?」

「・・・もう、ええ」


誰の言葉にも耳を貸さずに、彼は幻覚の中で笑った。

そんな彼を誰もが憐れみ、誰もが同情し、誰もが真実を伝えようとする。

しかし、彼にもはや真実は聞こえない。

誰も、彼の心は癒せない。


何故なら。


彼の癒しであった恋人は、すでに・・・。



「徳井くん、西野はずっとあのままで幸せなんかな」

「・・・」

「そんなん幸せちゃう。梶だって、そんなん望んでへんよ」

「・・・」

「そんなん・・・悲しすぎるやんかぁ・・・」



幸せだった日々に終わりを告げた日、彼らはコンビ結成の記念日を二人だけで祝うつもりだったらしい。

二人がコンビを結成した公園で待ち合わせをし、西野は梶原が来るのを待っていた。

しかし、梶原は来なかったのだ。

西野が何時間待っても、梶原は来なかった。

そして、数時間がたった時・・・西野の携帯が鳴る。

「・・・梶?」

『西野?大変や!梶が・・・!』

携帯から聞こえてきたのは福田の焦ったような声。

西野の時はここで止まる。

「・・・え?」



「お前がいなくなる筈ないやんか・・・なぁ?梶」

『当たり前やん!俺はいつまでも西野と一緒やで!』

「先輩らは、俺を騙そうとしてるんやな」

『西野、大好き!』

「俺も梶のこと大好きやで」



幻覚の中でかつての恋人に愛を囁き、彼は幸せそうに微笑んだ。



end


コメント

うわぁ・・・何?これ。

梶くんは待ち合わせの公園に向かう途中で交通事故で・・・。

ああ・・・私は病んでる。

でも、こういう話が大好物(殺)