<広い広い空の下>
広い広い空の下。
偽りの自由に飼い慣らされていることを知る。
もはや飛ぶことすら夢に見ない。
「・・・たいくつ」
梶原が静かに呟いた。
その言葉に、西野が眉間に皺をよせる。
「何がやねん」
「今が」
「阿呆か」
つまらなさそうにタバコを吸う梶原を軽く睨みつけ、西野は目の前にあるパソコンを指さした。
「この状況でよくそんなん言えるな」
「せやかて退屈やねん」
「・・・あんな、単独まで一週間もないんやぞ?」
「わかってるわ」
「じゃあ、何でそういうこと言うねん」
「・・・さぁ」
キングコングの単独ライブまで一週間をきっている、という事実に西野は焦っていた。
しかし、梶原は一向に焦りを見せない。
それどころか、先ほどからボーッとしていて何も考えてない様子だ。
「梶、もう少し焦れ」
「焦ってるつもりなんやけど」
「どこがやねん」
梶原のそんな態度が西野の苛立ちを大きなものにする。
ただでさえ焦っているというのに、こんな状態で面白いネタなど浮かぶはずがない。
西野は大きな溜息をついた。
「やめや、やめっ!」
「は?」
「イライラするわ。少し休憩!」
「・・・」
「梶、やる気ないなら帰れや」
「・・・・・別に、そういうんじゃないんやけど」
「じゃあ、何でそんなにボーッとしてんねん」
「んー・・・」
梶原は吸っていたタバコを携帯灰皿の中に入れ、窓から空を指さす。
「空」
「そら?」
「うん。空」
「それが何や」
「いつから飛ぶ夢を見なくなったかなって」
「飛ぶ夢?」
「小さい頃はいっぱい飛ぶ夢見たんやけどな」
そう言う梶原の顔はどこか寂しそうで、何故か西野を切ない気持ちにさせる。
「俺も、そんな夢は見てないで」
「せやろ?」
「確かにガキの頃は見てたけどな」
「大人になったってことなんかなぁ」
「・・・」
「ちょっと切なくなんねん」
子供の頃にたくさん見た空を飛ぶ夢。
大人になって偽りの自由に飼い慣らされた僕たちは。
もはや空を飛ぶことすら夢に見ない。
「梶は大人になりたなかったん?」
「ううん。大人やないとできないこと沢山あるし」
「せやな」
「タバコも酒も、大人やないとできひん」
それが偽りの自由に飼い慣らされたという証。
快楽ばかりを求めて、僕らは夢を見ることを忘れてしまった。
「梶は後悔してる?」
「何を?」
「俺とこうしてること」
「・・・ううん。西野のこと好きやもん」
「俺も梶のこと好きやで」
空を飛ぶ夢を見ていた頃は純粋に全てを信じていた。
だけど、偽りの自由の心地よさに身をゆだねた僕らは。
その純粋さを失う代わりに大人になる。
空を飛ぶ夢を見なくなったのは現実と快楽を知ったからだ。
偽りの自由という空の下、僕らは考える。
あの空を飛ぶことは出来ないのだと。
そう考えると、自然に涙が溢れ出た。
「梶、泣くな」
「・・・泣いてへんよ」
「・・・」
「ただ・・・」
「ただ?」
もう一度、純粋だった頃の夢を見たいと願うだけ。
end
コメント
うわー・・・これは完璧に私の心情だわ。
やばい。
ピーターパン症候群ですね、梶は。