<不器用恋愛論>



掴んだ手を離したくはなかった。



「高倉っ」

久保の悲痛な声に耳が痛む。

だけど離したくはない。

離す気もない。

「離せよっ」

久保の言葉なんて聞こえない。

黙ったまま久保の手を引いて歩いていく。

そして、急ぎぎみだった足音は、やがてゆっくりとしたものに変わり・・・。

久保は諦めたように高倉について歩いた。

そんな久保の手を強く握り、高倉はただ歩く。


「高倉」

不意に、久保が高倉を呼んだ。

高倉は振り返る気もなかったのに何故か振り向いて、久保の顔を見つめる。

「手、痛い」

そう言われても離したくはない。

離したら、彼はきっと本当に離れていってしまうから。

そんな高倉の心情を読んだのか、久保は優しく言い聞かせる。

「・・・高倉、大丈夫だから離して」

「嫌だ」

「離れていかないから」

「嫌だ」

「高倉・・・」

「・・・」

久保を見つめる高倉の表情はとても悲しそうで、久保は胸が締め付けられる感じがした。

今にも泣き出しそうな高倉を離したら、きっと壊れてしまうだろう。

久保は高倉の手を握り返した。

「・・・久保?」

不思議そうに見つめてくる高倉を見つめ返し、久保は優しく微笑む。

「高倉、大丈夫」

「・・・久保」


高倉の気持ちに嘘がないのだとすれば。

きっと自分の気持ちにも嘘はない。

これは同情とかではなくて。

きっと彼の想いに応えられる気持ち。


「・・・久保、ごめん」

「いいから」

「好き」

「うん、俺も」

「ごめんね・・・好きなんだ」

「謝るなって。俺も好きだから」

「・・・好き」

「俺も好きだよ」


掴んだ手を離したくはなかった。

掴まれた手を振りほどきたくはなかった。



end


コメント

最近、意味不明な文を考えるのがブーム。

考えさせられる文というのでしょうか?

私は国語によく出てくる「この時の主人公の気持ちを考えなさい」という問題が好きだった。

はた迷惑な管理人ですいません。