<記憶廃棄>



全てを棄ててしまえばいいと思った。

不変なものなんていらないから。

だけど、唯一棄てられないものがあるとすれば。

それは貴方への想いだけ。



梶の記憶が戻ってしまった。

梶は、5歳くらいの子供に戻ってしまった。

何が原因かなんてわからない。

ある日、突然そうなったから。

当然、WSの皆のことも仕事のことも覚えてない。

それだけじゃなく、自分の母親のことも覚えていなかった。

それなのに・・・。

「梶?・・・どこにおんねん」

「えへへvv西野ー!」

「あ、そんなところにいたんか。探したで?」

「見つかっちゃったーvv」

「腹減ってへんか?何か作ったるで?」

「うんっ!!」

外見は大人でも、中身は5歳の子供な梶。

梶は、俺のことだけを覚えていた。



あの日、梶が倒れた日。

病院に運ばれた梶の元に、梶の母親やWSのメンバーが急いで駆けつけた。

幸いにも命に別状はなく、ただの過労と診断された・・・・・・はずやった。

「雄太!アンタ、大丈夫なん?無理したらあかんって言うてるやろ!?」

目覚めた梶に必死に話しかける梶の母親。

しかし、梶は実の母親をまるで知らない人を見るかのように・・・。

「だれ?おばちゃん」

「雄太?何言うてんの?おかんやないの!」

「・・・わかんない。お兄ちゃんたちも・・・だれ?」

梶は、WSのメンバーのことも実の母親のことも忘れていた。

知らない人間に囲まれ、記憶が5歳まで戻っていた梶は不安そうに周りをキョロキョロと見回し、俺を見つけた。

そして、嬉しそうな笑顔を浮かべて俺を呼んだんや。

「西野!!」

「・・・・・・・・梶」



母親のことですら忘れたというのに、俺のことだけを覚えていた。

そして今・・・梶は俺と暮らしている。

「梶、手伝ってくれるか?」

「ええよ!何する?」

「じゃあ皿ならべてな。落とさないように気をつけて運ぶんやで?」

「まかせてやーっ」

世間的には、梶は病気になって芸人を休んでいることになっている。

梶のお母さんも医者も、梶が唯一覚えていた俺と暮らすのが一番と考え、俺に梶を託した。

梶が俺のことだけを覚えていたのには意味がある、からと。

せやけど、俺にそんな意味なんてわかるはずがない。

ただ・・・。

「・・・梶」

「なに?」

「・・・好きやで」

「おれも、西野大好きや!!」

半年がたった今でも、ファンから梶への手紙がたくさん送られてくる。

一人で順調に仕事している今になっても、事情を知らない先輩たちから「梶はまだ復帰せぇへんのか?」と聞かれる。



梶が俺のことだけを覚えていた意味なんて知らへん。

そんなん、どうでもええことやから。



ただ・・・。

俺は梶といつまでもこうしていたいと思っている。

記憶がなくても、梶は梶やから。



ただ、浅ましい感情を抱いているだけや。

記憶なんて戻らなければええと。

俺のことだけを見ていてくれればええと。



梶を独占できる優越感が心地よいから。



「梶、俺から離れていかんとってな」

「?」

「・・・わからなくてもええ」

「西野、だいすきっ!」

「俺も、大好きやで・・・」



記憶を棄てた君は。

何を思って記憶を棄てたのか。



end


コメント

ぎゃーーーー!!!

梶くんは記憶喪失プラス幼児に戻ってしまいました。

西野くんは幸せそうです。

梶も幸せそうなので・・・まぁハッピーエンド?かな。