<雪蝶>
その虫は、寒い雪の中を飛ぶにはあまりに儚げで。
名も知らない虫だった。
「・・・小沢さん、あの虫さぁ」
「え?どの虫?」
「あれ」
「・・・虫なんかいないけど?」
小沢さんの言葉にもう一度雪の降る空を見上げる。
そこに、虫はいなかった。
「おかしいなぁ」
「飛んでいっちゃったんじゃない?」
「・・・」
「どんな虫だったの?」
「・・・蝶々みたいな、白い虫」
「ふーん」
「・・・確かにいたんだよ?」
「うん」
「綺麗な虫だった」
「そう」
「小沢さんにも見せたかったのに」
「また見れるよ」
小沢さんが優しく微笑んで、俺の髪を優しく撫でてくれた。
「・・・」
ふと、頭のなかをよぎる不安。
もし、小沢さんがあの虫みたいに消えてしまったら?
あの虫のように、さっきまでそこにいたのに。
消えてしまったら?
「・・・っ・・・」
「・・・潤?」
俺はそれ以上の恐怖なんて知らない。
「潤、どうした?」
「小沢さん・・・消えないでね」
「・・・・消えないよ」
「恐いよ、ずっと一緒にいてよ」
「俺も恐い。だからずっと一緒にいるよ」
雪の中を儚げに飛んでいた虫のように。
貴方がどこかに消えてしまったら・・・。
俺はそれ以上の恐怖なんて知らない。
あまりの恐ろしさに身体の震えが止まらなかった。
end
コメント
意味不明な小潤。
いえね、私が雪の中でそういう虫を見たので。