この声が枯れるくらいに君に「好き」と言えばよかった。
会いたくて仕方なかった。
どこにいても、何をしてても。
<この声が枯れるくらいに>
後悔しても、しきれない想いとはこういうことをいうのかもしれへん。
今更になって悔やんでも、俺のしたことが許されるわけじゃなく。
お前を傷つけたという事実だけが。
お前を突き放したという事実だけが。
俺の心に重くのしかかった。
なぁ、お前は今・・・。
誰を想ってる?
「今更、梶に何を言うつもりなん?」
「・・・」
酷く聡明な瞳が俺を睨みつけた。
その目にはあきらかな嫌悪と蔑みが浮かび、俺の心をまるで射殺すかのようで。
「・・・」
いっそ、本当に殺してくれと思う。
「・・・西野、お前がしたことは許されへん」
「・・・わかってます」
細くて長い指が煙草を口元まで運び、彼は灰色の煙を灰色の空へ吐き出した。
その煙は、かつてアイツが吸っていたものと同じで。
アイツと同じものを吸っているこの人に酷く嫉妬している自分がそこにいた。
「もう、お前は梶の相方でしかないねん」
「・・・」
「仕事以外で、梶に会うな」
「・・・」
「今更、後悔しても遅いで」
「わかってますよ、宇治原さん」
「・・・」
冷たい視線が深く突き刺さる。
せやけど、お前の受けた痛みはこんなものやない。
もっと、もっと、深く刺してほしい。
梶を傷つけた俺を、刺し殺してほしい。
『別れてくれへん?』
なんて、どうして言った?
『好きな女できたんや』
どうして、そんなことを言った?
好きな女ができたなんて、嘘やった筈。
俺は確かに梶を好きやった筈。
俺は、自惚れてた・・・。
梶が俺から離れていくはずがないと。
ガキくさい独占欲とくだらない気持ちから。
梶を傷つけ、失った。
どうせ戻ってくる、なんて。
馬鹿げた優越感を捨てていれば、こんなことには。
「・・・宇治原さん」
「何や」
「梶を、よろしくお願いします」
「・・・お前にそんなこと言われんでも」
「わかってます」
今更、後悔なんていくらでも。
いっそ、梶自身に責められた方がまだ救われた。
こんな俺に言葉もかけてくれへんのか?
俺を蔑んで責めて、睨み殺してほしい。
それほどのことを俺はしたんやから。
「・・・ごめん、梶」
もっと、抱きしめてやればよかった。
くだらない優越感など捨てて、好きだと言ってやればよかった。
泣きながら俺から離れていくお前に気付ばよかった。
腕を掴んで、好きだと・・・声が枯れるほどに言えばよかった。
「好きやで・・・ずっと、これからも」
この声が枯れるくらいに君に「好き」と言えばよかった。
許してくれ、なんて言えへん。
せやけど、想うことだけは許してほしい。
もう二度と戻らない恋。
痛みだけがちょっと動いた。
end
コメント
宇治梶←西です。
西野さんは浮気したんですね。
梶くんに捨てられたんです。
なんか、切ないけど。こういうの好き。