<満月>


仕事が終わって二人で一緒に帰る。
今日は珍しく自分の家にお泊まりしてくれるらしい。
嬉しくてたまらなくて、折角だからとコンビニに寄った。
「俺は外で待ってる」
と言う彼をあまり待たせない為にも早く商品を選ぶ。
レジでお金を払ってすぐに愛しい恋人の所へ向かう。
だけど、そこに彼の姿はなかった。

「・・・久保?」
あたりを見回して名前を呼ぶ。
だけど久保の返事は返ってこないし、姿も見あたらない。
「久保?どこー?」
少しずつ心拍数が上がる気がした。
声も震えてるし、足もガクガクする。
「久保!?」
走ってあたりを探し回って、近くの公園の真ん中で久保の後ろ姿を見つけた。
「久保ぉ!!」
「うわっ!?・・・っと、高倉?」
「よかった・・・」
「どうしたんだよ」
後ろから抱きしめて溜息をつく。
それなのに、久保はきょとんと首を傾げてる。
こっちがこんなに探してたのに・・・。
「久保、何してたの?」
少し怒りながら言う。
だけど、久保はそんなの全然気付いてくれない。
「月、見てた」
「月?」
見上げてみれば、見事なくらい金色な丸い月。
あまりに明るすぎて星が見えない。
「綺麗だよなぁ」
「何で、ここにいたの?」
「んー・・・何でだろう?気付いたらここにいた」
そう言う久保の目線は月に向いたまま。
ねぇ、俺を見てよ。
久保の姿がちょっと見えないだけで、こんなに泣きそうなのに。
「久保・・・」
「月に行ってみたいなぁ・・・かぐや姫みたいに」
「!!」
「兎がいたら面白いのにな」
そう言って笑う久保をギューッと強く抱きしめた。
「高倉?ちょ、くるしっ・・・」
「久保、月になんか行っちゃやだ」
「へ?」
「何処にも行かないで」
「・・・ぶっ、あははははははははははっ!」
「な、何で笑うんだよっ」
「だ、だってぇ・・・はは、はははははっ!」
「・・・」
久保が笑うのをやめるまで数分かかった。

「高倉?たーかーくーらー?」
「・・・こんなに心配したのに」
「ごめんってば!本当ごめん!!」
「・・・久保の馬鹿」
「機嫌なおせよー」
「・・・キスしてくれたら」
「一生機嫌悪いままでいてください、さようなら」
「あー!うそうそ!!」
「そういう冗談はやめろって言ってんだろ」
「・・・でもさっきのは冗談じゃない」
「さっきの?」
「久保、何処にも行かないで」
「ああ、あれね・・・」
久保は思い出したのかまたもや笑いそうになっている。
「月になんか行かないで」
「行くわけないだろ」
「本当に・・?」
「お前置いて行けるかよ」
「久保・・・」
「でも、もし月に行けるなら二人で行こうか」
「俺も?」
「俺一人じゃ寂しいじゃん」
「久保っ!!」
「わっ!抱きつくなよっ」
「久保、大好きっ!!久保は?」
「あー、はいはい好きだよ」
「・・・愛がこもってない」
「うるせっ」

とりあえず、手を繋いで帰ろうか。

end

コメント
初の高久保です。
こんなんでいいんですかね?
初だから勘弁してください。